PAAC東北支部 斉藤 三夫
<キーワード>
- ・TMJ(Tempro Mandibular Joint Disorders=側頭下顎関節障害)
- ・TMD(Tempromandibular Disorders=側頭下顎部障害)
- ・AAAOP(アメリカ口腔顔面痛学会)
- ・Evidence based care=証拠に基づいた治療
- ・プラキシズム=(歯ぎしり、くいしばり)
- ・不正咬合とTMD
-現在の最新歯科学からみた顎関節の概念と診断、治療を検証し、カイロプラクティック・オステオパシー等の手技を再検討する-
人類の三大生理要素である、捕食・移動(歩行)・生殖の中から考えた場合、その意義として下顎は直立や移動に不可欠な平衡性の保持に作用があると思われる。神経生理学的に平衡性は、三半規管や、深部感覚、小脳からのフィードバックによる体勢保持だけでは解析不十分であり、爬虫類や両生類・昆虫でさえ頭位軸は常に重力方向に一致する。例えば我々が座位の姿勢から前傾すれば、下顎は重みで前に移動し後傾すれば後ろに動く。左右の傾きも同じである。下顎にはこのような単純で直接的な重力感作機構があると考えられる。脳の重さを含めると、頭蓋・頚椎支点(後頭・環椎関節面)では前方成分の方が重くなるが、下顎骨を除くと上部頭蓋は頭蓋・頚椎支点で釣り合う。つまり上部頭蓋の重心線は頭蓋・頚椎支点を通ることからも下顎骨が重なりとして作用している事がわかる。それ故に、下顎には抗重力機構や咀嚼における筋ベクトルや関節運動支点等の問題から、全身への影響は想像にかたくない。
開口時=C3、閉口時=C1…顎の開口に必要な筋群として顎二腹筋・肩甲舌骨筋・胸骨舌骨筋・胸鎖乳突期筋があるが(後頚部筋の作用による開口時の軽度頚部伸展がみられる。)その際の動滑車もしくはベクトル変換機としての舌骨は、C3レベルにTMJ、頚椎協調支点の合わせる様に働いている。この様に開口時における筋肉・関節を考えた際C3の重要性は高まる。ここで咀嚼時の頭蓋に安全性をもう一度考えてみる。下顎骨を含めた頭の銃身は外耳口を結んだ中心のわずか前方上方にある。それを後頭環椎関節を支点として支えた時、重心位置がそれより前にある為前に倒れようとする頭部を後頭下筋群が拮抗してバランスを取る。ここで咬合平面を後方に引くとちょうど頚椎1・2番の関節面に重なり、その際力点である左右の第2臼歯から後方へのラインは第2頚椎の左右の上関節面を通り作用点として後方5.6cmの所で結ばれる。ここで、咀嚼時は咬筋・側頭筋・内側翼突筋などの筋肉バランスの他に、歪んだかみ合わせが後頭骨と軸椎の間で環椎を著しくバランスを失わせ、又環椎の位置異常は、噛み合わせや咀嚼機構に与える影響も大いにありうる。
1.最新アメリカ歯科学からみたTMDの概念と定義
大規模な疫学的調査や追跡調査により、TMDの自然経過において、常に再燃する可能性はあるが際限なく悪化する病気ではなく、年齢とともに症状は収束に向かうself-limitingな疾患であるとし整形外科的な原則にのっとり治療し、不可逆的な咬合治療を行う必要はないとしている。
2.TMDの定義と日本と米国の違い
AAOP「咀嚼筋、関節、及び関節諸組織を含む臨床問題を包含する集合詞(概念)」
日本額関節学会「顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節雑音、開口障害ないし顎運動異常を主要症状とする慢性疾患群の総合診断名(1996年)」
米国では定義中の「関連諸組織」という言葉で表現されている様に、頭痛や後頭部筋郡の痛み、肩こり等を含み日本の顎関節症とは守備範囲がやや異なる。
3.米国におけるTMDの理解と遍歴
1936年に耳鼻科医のJames Costenがコステン症候として発表(1)痛み、可動性不足雑音、時として腫脹をともなうTMJ機能障害(2)顔面痛、頭蓋の頭頂部の痛み、耳周囲の痛み、鼻・喉の粘膜の焼ける様な痛み、2次性神経痛(3)異常な耳管の機能障害による耳鳴、聴覚低下、耳が詰まるような感じ(4)稀に外耳管、口の粘膜や舌のヘルペス疾患とし、コステンはこの症候のある患者の85%は顎劣化と機能障害を生じる歯の不正咬合に苦しんでおり、残り15%は歯ぎしりと精神的なものを原因とした。
1960年代〜70年代は精神生理学的考えが一般的となり、咬合異常より精神的要因が主な病因であるとし、筋・筋膜疼痛機能障害症候群MPO(mainfascial pain dysfunction sindorome)とよばれた。1970年代後半〜1980年代前半にかけて、解剖学的、又X線画像研究により、患者はひとつの疾患に罹患しているのではなく額内障、変形性顎関節症、筋障害、そして慢性疼痛、口腔、顔面領域の知覚神経障害など別々の診断名の問題をいくつか有し、それ以降のTMD研究は加速度的に進歩した。
これまで「咬合に起因する歯科的疾患」と考えられた為、治療の中心は咬合治療すなわち(スプリント)(咬合調整)(矯正)(外科手術)(補綴による咬合再編成)等だった。特に外科手術やアロプラスティック(人工円板)は悲惨な結果を生じたものが多数あった。
4.TMDの症状と原因
顎関節症の三大症候=雑音・疼痛・開口障害(過去の大学教育にて)それに現在は筋症状も加えて検討し問題は複雑化している。
関節症状:雑音と開口障害
関節雑音は関節円板の転位や下顎頭や関節腔内の軟骨が剥離しささくれだったり、軟らかい円板後部組織が繊維化して固い部分が出来たりして、下顎頭が動く時にこすれあって様々な音がする。雑音は関節内の解剖学適異常は示すが、TMDの重症度とは相関せず、雑音が疼痛や開閉障害の機能不全を伴わなければ治療の対象とはならないとしている。
{クリック}
A.相反性クリック(復位をともなう関節円板前方転位)
関節円板が前方に転位する開口時に下顎頭が円板に乗り上げて(復位して)雑音が発生し、開口時には再び下顎が円板からずりおちて又雑音が発生、開・閉時に各々一回ずつ音がする。「Withと称す」
B.復位を伴う関節円板前方転位以外のクリック
最大開口時に下顎頭が関節結節を乗り越えてさらに前方に出る様な場合、円板がズレていなくとも、円板・下顎頭複合体と関節結節がこすれあった雑音を発生する事がある。=エミネンス(関節結節)クリック
{クレピタンス}
ミシミシきしむような音(正常でもありうる)。下顎頭が繊維化した円板後部組織や直接骨とこすれ合って発生する音を起こす。
{ロック}(復位をともなわない関節円板前方転位)
関節円板が前方転位し、開口の際に下顎頭の通り道をふさいでしまう場合、円板の前方転位は開口障害を引き起こすが、下顎頭が円板を押し出すので時間の経過とともに開口距離は徐々に回復する。「Without」
{癒着}
転位を伴わない(Without)関節円板前方変位(ロック)があって開口訓練を行わず長期間経過すると関節内繊維性癒着が生じ開口障害を起こす。…治療を有するTMDの2〜3%に癒着があり、関節鏡視下手術適応の可能性。
筋症状:酷使による筋の疲労・過緊張で咀嚼筋痛、頭痛、肩こり、等生じる
-筋症状のメカニズム-
ストレスや痛みが原因で力を入れたり、日中や夜間のブラキシズムにより筋が酷使されると、筋中に老廃物が蓄積し筋は疲労・緊張し血管が収縮する・この様な虚血状態が続くと炎症が生じ疼痛を起こす。
5.病因論
●パラファンクション(異常機能活動)…ブラキシズム(歯ぎしり又はくいしばり)、口唇や頬粘膜を噛む癖又非生理的な関節・筋の運動、姿勢や電話を顎の下に挟むなどがある。
ここで一般の人の半数以上、TMD患者の80%にみられるブラキシズムについて述べる。日中の噛みしめやくいしばり、睡眠中の歯ぎしりはそれぞれclenching、gridingとよばれる。日中のブラキシズムであるclenchingは悪習慣であり、夜間のそれほど強いものではないが、持続時間が長い為TMD特に筋への影響大で、最大咬合力の10%で30分間くいしばると一般の人の17%、緊張性頭痛患者の69%に頭痛が生じる。「気が付いたら上下の歯がくっついていた}は危険と認識すべきである。
夜間のブラキシズムは破壊的で、例えば脳内出血で昏倒した患者が発作時に異常なくいしばりをし、下顎の前歯が上顎の前歯にくいこみ前歯上下10本脱臼した例がある。
又てんかん時のくいしばりをみても想像がつく。
このように睡眠中のブラキシズムは大脳皮質が抑制される為筋の過緊張をコントロール出来ない。
●咬合異常とブラキシズム…以前は咬合が悪い為に干渉が生じそれが原因でブラキシズム(歯ぎしり)が起こると考えられていた。その為盛んに咬合調整が行われた。
しかし現在ブラキシズムは中枢で起こり抹消の因子が原因でないとされ、スプリントはブラキシズムのコントロールや補填物の保護として意味合いがあり、咬合調整でブラキシズムを抑制する事は疑問視されている。
そもそも咬合(咬合器の模型上の咬合接触点)とはある種想像上の概念であり、咀嚼や嚥下の時大事かもしれないが、顎の動きはかなりダイナミックであり、咬合だけにとらわれすぎる傾向は問題がある。近年の研究では咬合の正常者、異常者の間にTMD発生率に差はないとされている。TMDの主な原因は過重負担であり咬合ではない。
6.検査
A.問診 ・・・1)主訴 2)発祥時期 3)過去のTMD症状 4)痛みの5項目(痛みの質・強さ・憎悪-改善因子・持続時間・部位) 5)機能障害(開口障害や閉口時の顎の変位) 6)TMD治療歴 7)パラファンクション(異常機能活動)について 8)症状が増悪する時間帯 9)偏咀嚼の有無 10)睡眠障害 11)頭痛・筋緊張の有無 12)仕事の内容 13)生活の中のストレスや精神的な健康状態
B.ブラキシズムのスクリーング ・・・夜間タイプ 1)夜中にははぎしりをしますが、又はそれを誰かに指摘されたことがありますか(はぎしりで音のするのは5〜20%といわれる為見逃されやすく、スプリントのキズで発見されるケースが多い) 2)朝起きた時頭痛がありますか 4)明け方グーッと歯をくいしばっていることに気づいて目が覚めますか 5)朝おきた時に鈍痛がありますか
日中タイプ 1)昼間気が付くと上下の歯がくっついている事が多いですか 2)なにか歯をくいしばる様な仕事をしていますか
C.開口障害の検査 ・・・まず強制開口を試みる。関節性であれば関節に遊びがないが、筋性であればした顎頭は滑走可能にもかかわらず筋の緊張や痛みで開口出来ない場合が多く、マニュピレーションにてじりじり開口する場合がある。筋に原因がある場合、筋に緊張と圧痛点があり、筋の短縮や痛みの為に20mmも開口出来ない場合がある。
しかし関節は動く為、下顎の前方や側方運動は正常に行える。関節内に原因がある場合(復位を伴わない関節円板前方方転位withoutによるもの)筋性の開口障害とは反対で下顎頭の回転運動は可能なので25〜30mm開口距離は保たれるが、下顎頭の前方、側方への運動は阻害される。関節内の癒着による場合も25〜30mmの開口障害と下顎頭の前方前方、側方運動は阻害され、これらを鑑別する場合は、上関節腔に生理食塩水を注入し関節腔を膨らませると、パンピングにより関節内に遊びが出来、下顎頭が転位した円板の下をくぐったり円板を押したりして開口距離が回復すれば癒着でないとする。
7.一般的な治療
日本での一般的TMD治療は、スプリントを使用して症状の経過観察をし、最終的にはスプリントで症状が消失した顎位に咬合を再構築する。しかしこれには、多大な時間と費用がかかった。AAOPは、TMDの原因は多因性でふぁり、又可逆的な方法で症状を緩解出来、これはselflimitingな疾患であるとしている。治療の原因は「可逆的・非侵襲的・costeffective」である。具体的な治療として 1)物理療法(温熱・超音波・TENS等) 2)マッサージ(トリガーポイント) 3)スプリント 4)運動療法 5)セルフケア 6)薬物療法 7)外科療法等がある。
8.Evidence based care(証拠に基づいた治療)
A.運動療法
下顎可動化療法(筋性・関節性の開口障害両方に有効)・・・体表で下顎頭を触知しながら、他方手で下顎を把持しゆっくり前方に引き出して開く。患者が自分の両指で(1・2指)同じ様にこじあける。リズミカルな口の開閉(等張性運動により血行改善、筋の協調性訓練、但し下顎の軌道をストレートに行う)。筋を等尺性に収縮運動させる(自分の示指で抵抗させながら、下顎を前方・側方・開口運動を行い筋の協調的な運動能力を回復)。
B.セルフケア(TMDの自己管理)
1)口を大きく開けない・固い物を噛まない・長く噛まない 2)不用意に欠伸をしない 3)頬杖・うつ伏せ寝をしない 4)かみしめ・くいしばりによる筋肉痛を治すため以下の呪文を実行する。「唇を閉じて、上下の歯を離し、顔の筋肉の力を抜く」
C.トリガーポイント・マッサージ
筋肉治療の場合は、「短縮痛が最大の運動抑制因子の大原則」にのっとり行う。開口障害(痛みはないが開かない)又は閉口時にクリック・・・内側翼突筋と外側翼突筋そして、咬筋・側頭筋・広頸筋のTPsを治療。開けようとするとズキッと痛んで開かない又は開口時にクリック・・・外側翼突筋のTPsを治療。
D.CST(頭蓋仙骨治療)
TMJ症候のCST治療は体全体の診断に基づいて行われる。関節・筋どこに異常があるかを探す。弧・筋膜の滑動・頭蓋・仙骨の動きの対称性と質の評価。各テクニックを使って体全体の診断(体の制限を見つける)をする。触診によって顎関節と下顎関節のバランスを評価し治療。側頭骨の可動性とその水平膜系と縫合との関係に注意。特に胸鎖乳突筋(支配神経は脊髄副神経とC2.3の枝、これは硬膜管の付着部でもあるので仙骨の影響もありうる)の緊張は、側頭骨を外旋(オステでは内旋)に固定しうる。そして側頭骨の機能障害とともに、筋肉付着部が横切っている後頭乳突縫合の機能障害を生じる。この縫合での問題は各頭蓋の半円によって形成される頚静脈孔に問題を生じる。脊髄副神経は、舌咽神経・迷走神経・頚静脈とともにこの孔を出る。孔の圧迫は、副神経を過敏にし胸鎖乳突筋の緊張を高め悪循環で更に神経を圧迫する。又迷走神経の圧縮により、めまい・失神・頻脈・不整脈・胃酸過多・幽門機能障害・大腸機能障害が起こりうる。(まさに1930年代に発表されたコンテン症候と一致する)
この頚静脈孔の開放テクニックとして後頭骨と側頭骨の脈相互関係を可動化する。そして下顎骨の加圧・減圧テクニックを行う。又側頭骨と小脳テントを解放すると、顔面神経が頭蓋内を走行、側頭内の骨性の管を通る時の顔面神経にかかる圧を減圧する。そして側頭筋、咬筋は三叉神経が支配する。三叉神経は上部頚椎と神経的に重複する為、Co.1.2へのアプローチは必須となる。
又、これらの事によりカイロプラクティックSOTのクレニオにおける各TMJテクニックの意味合いが少しづつ理解できてくる。
9.まとめ
最新歯科学・カイロプラクティック・オステオパシーからそれぞれのTMJをみると、今まで学んできた治療が見えなかった部分や全体像が浮かんでくる。全ての症状には原因・メカニズムがあり、それに基づいた「EVIDENCE BASED CARE」を追求していきたい。










